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新潟地方裁判所 昭和45年(わ)322号 判決

本店の所在地

燕市大字燕三、五五〇番地の一

被告人

丸七金属工業株式会社

右代表者代表取締役

深海義男

本籍および住所

燕市大字燕三、三九五番地の四〇

会社役員

被告人

深海義男

大正四年一〇月二〇日生

検察官

咄下吉男 弁護人 滝沢寿一 出席

主文

被告人丸七金属工業株式会社を罰金二五〇万円に処する。

被告人深海義男を懲役四月に処し、この裁判の確定した日から二年間右の刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人丸七金属工業株式会社は、昭和三三年四月一〇日資本金一〇〇万円で設立され(本件当時は資本金八〇〇万円)、本店を燕市に、出張所を東京都および大阪市に置き、従業員約七〇名を使用して、金属製品の製造、販売業、金物、雑貨品の販売業などを営んでいる同族会社である。

被告人深海義男は、昭和二一年妻の兄が経営する丸七商事株式会社の専務取締役に(昭和二四年に合併して丸七株式会社となつたのに伴い、同社の専務取締役となる)、その後丸七株式会社から分離設立された本件被告会社に昭和三五年一〇月以降代表取締役となり、同会社の業務一切を統轄しているものである。

被告人深海は丸七株式会社当時、会社が経営不振から不渡手形を出し、従業員の給料支払も遅滞し、金融機関から融資も受けられないで、苦しい目にあつたことから、被告会社のような中小企業では、ことに不況に備えて、利益の内部留保をはかる必要があり、裏金を作るためには脱税もやむをえないと考えるようになつた。そして、そのために、(一)原材料や商品の仕入先に依頼して、架空の仕入があつたように装い、(二)各事業年度始および年度末の原材料および商品の在庫たな卸し高の一部を簿外に置き、このようにして売上高に比べて売上原価を過大に表示し、なお(三)右不正に伴つて蓄えた簿外の預金などの受取利息なども公表せず、結局各事業年度の純利益を過少に表示して申告し、法人税を免れようと企てた。

そこで、被告人深海は被告会社の業務に関して、

第一、 昭和四一年一〇月一日から翌四二年九月三〇日までの事業年度につき、被告会社の所得金額が三四、五二九、〇七四円であつて、これに対する法人税額が一一、六五三、六〇〇円であるのにかかわらず、渋木銅鉄店ほか六個所の仕入先と通じて、原材料および商品の架空の仕入を計上し、期首、期末の原材料および商品のたな卸し高の一部を計上せず、かつ隠し預金一五口などの受取利息などを計上せず、昭和四二年一一月三〇日新潟県西蒲原郡巻町にある巻税務署で、同税務署長に対し、所得金額が一八、七〇〇、五八一円で、これに対する法人税額が六、一一五、二〇〇円である旨の、内容虚偽の確定申告書を提出し、もつて偽りの行為により、右事業年度の隠し所得一五、八二八、四九三円に対応する法人税五、五三八、四〇〇円を免れた。

第二、 昭和四二年一〇月一日から翌四三年九月三〇日までの事業年度につき、被告会社の所得金額が三一、八〇九、八一一円で、これに対する法人税額が一〇、六一二、八〇〇円であるのにかかわらず、池田製函所ほか七個所の仕入先と通じて原材料および商品の架空の仕入を計上し、期首、期末の原材料および商品のたな卸し高の一部をことさら計上せず、そのほか隠し預金二三口などの受取利息等を計上せず、昭和四三年一一月三〇日右税務署で、同税務署長に対し、所得金額が一六、二五五、六九八円で、これに対する法人税額が五、一七一、一〇〇円である旨の内容虚偽の確定申告書を提出し、もつて偽りの行為により右事業年度の隠し所得一五、五五四、一一三円に対応する法人税五、四四一、七〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

一、 被告会社代表者および被告人深海義男の当公判廷での供述

一、 同人の大蔵事務官に対する質問てん末書一一通

一、 同人の検察官に対する供述調書三通

一、 同人作成の答申書三通

一、 同人作成の提出書

一、 大蔵事務官作成の脱税額計算書二通

一、 大蔵事務官作成の証明書二通

一、 大蔵事務官作成の架空仕入調査表

一、 渋木幸男作成の供述書

一、 池田清志、辰巳英文、野口秀明(二通)、垣内弘子、小川豊作、藤沢三郎、吉田吉蔵、遠藤はるを、柳原密、深海保、長谷川福一、長谷川征二、吉沢敏、上田実、加藤庄平作成の各答申書

一、 島村行雄、深海敏夫(二通)、長谷川征二、古沢敏、加藤庄平(四通)、飯島弘二、坂上彰、落合郭廷、藤沢ユキ子の収税官吏に対する各質問てん末書

一、 深海敏夫、長谷川征二(二通)、古沢敏、加藤庄平の検察官に対する各供述調書

一、 大蔵事務官作成の送金および取立手数料調査表および手形取立、送金手数料明細各一通

一、 国税査察官作成の法人税決議書、査察更正決議書および事業税納付調書各一通

一、 押収してある総勘定元帳四冊(昭和四五年押第七四号の一、二)

一、 同支払手形受払帳二冊(同号の三、四)

一、 同買掛帳四冊(同号の五、六)

一、 同支払手形振出控綴二綴(同号の七、八)

一、 同在庫棚卸表三綴(同号の九、一〇、一一)

(法令の適用)

被告人深海義男の判示各行為は、それぞれ法人税法一五九条一項に該当するが、所定刑のうち懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役四月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から二年間右の刑の執行を猶予する。

被告会社の判示行為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するが、右は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により罰金の合算額以下で処断して、被告会社を罰金二五〇万円に処する。

(量刑の事情)

本件は、被告人深海義男が判示のような動機から脱税を企て、自ら、あるいは東京、大阪の出張所長を通じて、主として遠隔地の取引先に、事情を明かして協力を求め、架空の請求書、領収書等をもらい受け、さらに各地の銀行に架空人の名義の口座を設けて、支払金を振り込むなどの形式を整え、計画的な脱税を計つたもので、しかもこのようなやり方の脱税を昭和三六年ごろから始め、漸次大規模となつたものであつて、悪質というほかはない。

しかし、同被告人は本件犯行が発覚後は、その誤まりを卒直に認め、ほ脱税額や重加算税などをすべて納付し、今後は二度とこのようなことをしないと誓つている。そこで被告人らに有利および不利なすべての事情をしんしやくして、主文のとおり裁判をする。

(裁判官 藤野豊)

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